映画『高速道路家族』でホームレスを演じたチョン・イルが考える、人生の幸福とは?

Culture 2023.04.27

7年ぶりのスクリーン復帰作となった『高速道路家族』。チョン・イル演じるギウは、家族4人で高速道路のサービスエリアにテントを張って路上生活を送る。立ち寄る訪問者に「2万ウォン貸してください」と、ある種の詐欺を働きながら生計を立てているが、それでも家族は幸せな生活を送っていた。しかし、偶然通りかかった中古家具店を営む夫婦との出会いで人生の歯車が狂い始める。ギウの壮絶な結末とは。

2006年映画『静かな世界』で俳優デビューを果たし、『思いっきりハイキック!』で高校生ユノを演じ脚光を浴びる。『美賊イルジメ伝』、『太陽を抱く月』、『シンデレラと4人の騎士』などキラキラした王子様のような役が多かった彼が選んだスクリーン復帰作はホームレス役だった。映画の魅力、そして人生の幸福に迫る。

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高速道路のサービスエリアで家族4人で暮らす、父親ギウを演じる。

――7年ぶりの映画出演、そして21年のドラマ『ポッサム』に続く2度目の父親役ですが、父親役を演じてみていかがでしたか?

「久しぶりの映画だったので、ありふれた役柄ではないキャラクターを演じたいと思っていました。この映画はインディーズ映画ならではのメッセージを含んでいて、そこが気に入りました。ギウというキャラクターは、私の目にはとても新鮮に映り、出演を決めました。ドラマ『ポッサム』の父親役はどちらかというとちょっと無愛想な人柄でしたが、今回は家族しか自分にないと思っている父親で、私はギウ自身が持つ”痛み”に焦点を合わせて演じました」

――サービスエリアのシーンでの詐欺師のような風貌から、階段に座る物乞いの姿は別人のようでした。今回、ホームレスの役を演じるにあたって役作りはされましたか? 何か参考にした映画や人物なども教えてください。

「ホームレスの方たちがこの生活を選んだ理由を自分なりに解釈したいと思って、ドキュメンタリーを色々と観ました。路上生活をしているけど、彼らなりに満足していて、幸せに暮らしていることが分かりました。だから、ギウの家族もみんな仲良く楽しそうに暮らしているという姿を表現することができましたし、監督の意図もそこにあったと思います。サービスエリアでのシーンは、一見詐欺師のように見えるかもしれませんが、ギウにとっては、自分が家長として家族の生活に責任をもつという意味で、お金を“お借りする”という、ある種の正当化した稼ぎ方だと思い、演技に挑みました」

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夜になると家族4人で音楽に合わせて踊ったりしながら、幸せな生活を送っている。

――音楽に合わせてテントの中で踊るシーンは、家族がとても幸せそうに見えます。このシーンを観た時に幸福というのは、人によって違うものだと感じましたが、チョン・イルさんにとっての人生の幸福は何ですか?

「自分にとってはまず仕事ができること自体がとても幸せですね。
最近、幸せの基準が変わってきたなと思うことが多いんですよね。若い頃は、人から自分はどう見えているか、いい評価がもらえることで満足していましたが、いまは自分自身を見つめて、自分で答えを持つことに幸せを感じています」

――自分を見つめ直したり、自分を探すのはどのように行っていますか?

「より深い話ができる人との会話がとても大切な時間です。たとえば、同じ本を読んで、その内容について深く話合える人たちと意見を交わしたり。あとは、クラシック音楽を聞いて自分の感情がどう動くのかを見つけることもあります。考えてみると以前は、自己肯定感が比較的低かったと思います。最近自分を見つめ直すことで、自己肯定感も随分上がってきたかなと思います」

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銭湯には行かず、サービスエリアの洗面所で身体を洗う家族。

――路上生活をしているギウの子どもたちは、どのように育つと思いますか?そして、ギウはどのように成長して欲しいのか、子どもたちにどんなことを人生で感じて欲しいと思っているのでしょうか?

「家族で路上生活をしていますし、自分勝手な選択で子どもたちを利用しているように見えるかもしれません。ただ彼の立場からすれば、かつて社会の中で大きな傷を受けた経験があるがゆえに、社会に一切関わらないことで家族と自分を守り、自分が作った社会の中で幸せを見つけ出していたのだと思います。子どもたちを大自然へ自由に解き放ってあげることが、彼らにいい影響を与えられると信じているのでしょう。ある意味、合理的な考え方とも言えると思いますが、きっとこの生活がギウにとって最善の選択だったのでしょう」

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今回初めての共演となったキム・スルギと息の合った夫婦役を演じた。

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ある問題を抱える中古家具店の婦人を演じるのは実力派女優ラ・ミラン。

――夫婦役を演じたキム・スルギさんや、偶然な出会いとなる中古家具店の社長婦人を演じたラ・ミランさんなどとの共演はいかがでしたか?

「まず、ラ・ミラン先輩ですが、本作では一緒に演技をするシーンが多くはありませんでした。ただ、ラ・ミラン先輩がいてくださる、その存在だけでもすごく頼もしかったですし、僕が主演としてこの作品をリードしていくプレッシャー、負担が少し軽くなりました。妻を演じたキム・スルギさんはコメディが得意な俳優と認識していました。一緒にいるととても知性的でシリアスな演技も上手だった。すごく彼女から刺激を受けましたし、共演してすごく息が合っていたと思います。共演者たちがみな、いい演技ができていたと思います」

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家族愛が強すぎるがゆえに、悲劇の結末を迎えるギウ。

――子どもたちは電子ゲームを使わずに、昔ながらのかくれんぼで遊んでいましたね。チョン・イルさんは子どもの頃、何をして遊んでいましたか?

「両親がとても忙しかったし、友だちもほとんどいなかったので、幼いころはひとりでいることが多かったです。僕の幼いころの唯一の友だちは、レゴでした。レゴと対話もしましたし、城や船を作ったりしていましたね。幼少期の影響もあり、いまでも寂しがり屋ですね」

――サービスエリアで「2万ウォン貸してください」というと「カカオペイ使っていますよね?」と言われて、使われていないであろうスマホを取り出すギウを演じていました。デジタル大国の韓国ですが、チョン・イルさんはデジタル派ですか?アナログ派ですか?

「もちろん私もデジタル化された生活をしています。さまざまなことが手軽に解決できる世の中になってきていますよね。時代の流れに逆らうことはしませんけれど、ふとある瞬間にこのまま全て任せっきりになると本当にバカになってしまうと自覚することがあるんです。最近、ジョージ・オーウェルの『1984年』を読んだんですが、これは1950年ぐらいに書かれた本で、社会批判と未来の予見をしています。街中がカメラで監視されていて、便利を追求するが故に、自分たちの足かせになってしまうという話で、まさに現代がそうだなと感じています。便利な生活に慣れすぎてはいけない、何も考えなくなってはいけないなと思います。なぜこのように変わっていくのかをまず自分で考えることで、主体的な人生、暮らしが送れるのだと思います」

――仕事が人生の幸福とも言っていましたが、今後どんな仕事に挑戦したいですか?

「『高速道路家族』の出演で、さまざまなキャラクターのオファーが来ているので、これからいろんなジャンル、キャラクターでみなさんにお会いできると思っています。こういう仕事がしたいと定めるのではなく、多種多様な挑戦を続けて行きたいと思っています」

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JUNG IL WOO/チョン・イル
1987年生まれ。2006年映画『静かな世界』で俳優デビュー。同年には人気シットコム『思いっきりハイキック!』で注目を集める。『美賊イルジメ伝』、『太陽を抱く月』などで時代劇ドラマでも実力を発揮し、韓国を代表する俳優の一人として世界中のファンを魅了する。最近は『ポッサム』、『グッジョブ』など数多くのドラマに出演する。『高速道路家族』は7年ぶりのスクリーンの復帰となる。
『高速道路家族』
●監督・脚本/イ・サムスン
●出演/チョン・イル、ラ・ミラン、キム・スルギ、ペク・ヒョンジン、ソ・イス、パク・ダオン
●2022年、韓国映画
●128分
●配給/AMGエンターテメント
●シネマート新宿ほか全国順次公開中
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